業務用エアコンは、内部を循環する「冷媒(れいばい)ガス」によって、空気を冷やしたり温めたりしています。この冷媒には、いくつかの種類があり、時代とともに移り変わってきました。そして近年、環境への配慮から、冷媒の切り替えが進んでいます。
この記事では、業務用エアコンの施工を15年手がけてきた立場から、冷媒ガスの種類と違い、規制による移り変わり、そして施工者から見た冷媒の実務まで解説します。少し専門的な話ですが、古い機械を使っている方や、入れ替えを考えている方には、判断の参考になるはずです。
冷媒ガスとは
冷媒とは、エアコンの中を循環しながら、熱を運ぶ役割をする物質です。冷媒が、室内の熱を吸収して屋外に運び出したり(冷房)、その逆をしたり(暖房)することで、エアコンは機能します。冷媒がなければ、エアコンはただの箱です。それくらい、冷媒は空調の心臓とも言える存在です。
冷媒の移り変わり——R22からR410A、そしてR32へ
冷媒は、環境問題を背景に、時代とともに切り替わってきました。大まかな流れを見てみましょう。
R22(古い冷媒)
かつて広く使われていた冷媒です。しかし、オゾン層を破壊する性質があることから規制され、生産が削減され、現在では製造が終了しています。古い業務用エアコンには、このR22が使われています。
R410A(一世代前の主流)
R22の次に主流となった冷媒です。オゾン層は破壊しませんが、地球温暖化への影響(GWP=地球温暖化係数)が大きいという課題があります。長く業務用エアコンの標準として使われてきました。
R32(現在の新しい主流)
現在、切り替えが進んでいる新しい冷媒です。温暖化への影響が、R410Aの約3分の1と小さく、環境に配慮した冷媒です。家庭用エアコンではすでに主流となっており、業務用でも移行が進んでいます。ただし、わずかに燃える性質(微燃性)があるため、施工には、それに応じた注意が必要です。
規制で、冷媒はどう変わっていくのか
ここは、正確にお伝えしたい部分です。「R410Aが使えなくなる」という話を聞いたことがあるかもしれませんが、少し正確に整理します。
地球温暖化対策として、日本では「フロン排出抑制法」という法律で、エアコンに使う冷媒の環境影響度(GWP)に、目標値と期限が定められています。これは、主にメーカーが新しく製造する機械に対する規制です。
具体的には、機械の種類ごとに、低GWP冷媒(R32など)への切り替え時期が決まっています。例えば、
- ビル用マルチエアコン(新設):2027年4月から、低GWP冷媒への移行が求められる
- 設備用エアコンなど:2029年4月から
大切なのは、今使っているR410Aの機械が、ある日突然使えなくなる・違法になる、というわけではないことです。規制がかかるのは、あくまで「これから新しく製造される機械」です。今動いている機械は、そのまま使い続けられます。
ただ、大きな流れとして、新しく設置する機械は、これから順次、R32などの新しい冷媒に切り替わっていく——これは間違いありません。
施工者から見た、冷媒の実務
ここからは、実際に冷媒を扱う施工者として、現場でどう向き合っているかをお話しします。冷媒は、種類によって、扱い方が変わります。
冷媒は「混ぜてはいけない」
冷媒は、種類ごとに性質が違うので、異なる冷媒を混ぜてはいけません。だから、私たちが入れ替えなどで古い冷媒を回収するときは、ガスが混ざらないよう、冷媒の種類ごとに、入れるボンベを分けています。R22はR22のボンベ、R410AはR410Aのボンベ、という具合です。これを徹底しないと、回収した冷媒が使い物にならなくなります。
冷媒によって、使う工具が違う
また、冷媒の種類によって、使う「マニホールドゲージ(圧力を測る工具)」が異なります。冷媒ごとに、かかる圧力が違うためです。例えばR410Aは、R22より高い圧力がかかるので、それに対応した工具を使います。冷媒が違えば、施工の道具から変わってくる、ということです。
冷媒は、種類ごとに性質が違うので、異なる冷媒を混ぜてはいけません。だから、入れ替えなどで古い冷媒を回収するときは、ガスが混ざらないよう、冷媒の種類ごとに、入れるボンベを分けています。回収した冷媒に別の種類が混ざってしまうと、使い物にならなくなるからです。
それから、冷媒の種類によって、使うマニホールドゲージ(圧力を測る工具)も変えています。冷媒ごとに、かかる圧力が違うためです。R410AはR22より高い圧力がかかるので、それに対応した工具でないと、正しく作業できません。つまり、冷媒が違えば、施工で使う道具から変わってくる、ということです。
冷媒の回収は、法律で決められた作業
なお、エアコンを撤去・入れ替えする際の冷媒の回収は、法律(フロン排出抑制法)で義務付けられた作業です。冷媒を大気に放出することは禁じられており、有資格者が適正に回収する必要があります。これも、入れ替え工事に費用がかかる理由の一つです。
古い冷媒の機械は、入れ替えを考える目安になる
以上を踏まえて、古い冷媒の機械をお使いの方に、施工者としてお伝えしたいことがあります。
特にR22の機械をお使いの場合。R22はすでに製造が終了しているため、故障して冷媒を補充したくても、手に入りにくかったり、価格が高くなったりします。「冷媒さえ足せば、まだ動くのに」という状況でも、その冷媒の入手が難しい。これは、修理して使い続けることの、現実的な壁になります。
そのため、R22のような古い冷媒の機械は、大きな故障をきっかけに、修理より入れ替えを選んだほうが、結果的に良いことが多いです。どのみち、これから新しく設置する機械は、R32などの新しい冷媒に切り替わっていきます。長い目で見れば、古い機械を無理に延命するより、新しい機械に入れ替えるほうが、冷媒の面でも安心です。
もちろん、今すぐ慌てて買い替える必要はありません。ただ、古い機械が故障したときや、入れ替えを検討するとき、「冷媒がもう手に入りにくい世代かどうか」も、判断の材料に加えるとよいでしょう。
まとめ
業務用エアコンの冷媒ガスについて、要点を整理します。
- 冷媒は、エアコンの中で熱を運ぶ、空調の心臓とも言える物質
- R22(オゾン層破壊で生産終了)→R410A(温暖化影響が大)→R32(新しい主流)と移り変わってきた
- 規制は主に「新しく製造する機械」が対象。今ある機械が突然使えなくなるわけではない
- 新設の機械は、2027〜2029年にかけて、種類ごとに順次R32などへ切り替わる
- 冷媒は混ぜられず、種類ごとにボンベや工具を分ける。回収は法律で義務付けられた作業
- R22など古い冷媒の機械は、冷媒が手に入りにくく、入れ替えを考える目安になる
冷媒は、普段は目にすることのない、隠れた存在です。しかし、その種類と規制の動きは、機械の入れ替えを考えるうえで、意外と大切な判断材料になります。特に古い機械をお使いの方は、一度、ご自分の機械の冷媒がどの世代かを、業者に確認してみるとよいでしょう。それが、これからの設備計画を考える、一つのきっかけになるはずです。
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